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2012年11月

2012年11月13日 (火)

Novembre (4)

Metropolitan

メトロポリタン1号線をシャトレ駅で降り、
シャンソンの名曲を奏でる路上ギタリストの前を通って4号線に乗り換えようとすると、
プラットフォームに続く地下道で、人々が行列をつくっている。
いっこうに進む気配のない人の群れに加わり、やれやれとコンクリートの壁に寄りかかると、目の前では、
カールした長い髪をルーズに束ね、洒落た黒のワンピースを着る学生風の女が、
少し前に立つ背の高い黒人の男と独り言のような短い会話を交わしたあと、
おもむろにしゃがみこみ、
無造作に書類の詰め込まれた布製のバッグから携帯電話を取り出し、
おそらく遅刻の言い訳であろうメールを慣れた手つきで打つ。
そして、ため息とともに立ち上がり、
いつのまにか増えていた後方の人々の間を
足早に抜けていく。

19/11/2007

Paris06001

La Rotonde

モンパルナスにほど近いいつものカフェの窓際の席に一人座り、
キャフェを一つオーダーする。

外の席にコートを着たまま座る若い男が一人、買ったばかりであろう本を丁寧に袋から取り出し、読み耽る。
やがて交差点に若い女を見つけ、小銭をテーブルの上に置き、荷物を持って駆け寄る。
二人は横断歩道の手前でなにかを話しながら、美味そうにタバコを喰らう。
そして男がおもむろに、女の両頬にキスをする。

目の前の席に座る中年の男二人は、ウェイターに英国訛りのフランス語でワインと食事を二人分注文をすると、お国の言葉で昼間からなにやらギラギラした内容の話をこそこそとする。
食事の後にキャフェを二つ注文し、律儀に会計をしてその場を後にする。

左の通りでは、赤いコートに身を包んだ若い女が一人、手を上げてタクシーをつかまえる。
軽やかに車に乗り込むと、 バッグを開けて中身を確認しながら運転手に行き先を告げる。

走り出した車が見えなくなるころ、私は一人、
かすかに甘い黒くて苦い液体をほんの少しだけすする。

19/11/2007

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Novembre_image300

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Novembre (3)

東京の11月を集中的に撮ったのは、2010年と2011年。とくに2010年は、あるイメージをつかまえたくて、とにかくよく歩いた。

そのイメージとは、友人と話しているときに突如脳裏に閃いた、光に向かう2本の線路のプリントだった。

それがあまりに鮮烈で具体的だったので、その画から逆算して、どんな印画紙にどんな大きさでプリントするか、どんなフィルム、レンズ、カメラを使うか、どんな光が入るどんな時間帯に、どんな場所で撮影するかを考えた。

どれくらいの時間を費やした後だったろうか、東京中の線路を見て歩いた末、ようやく1カ所、脳裏に浮かんだビジョンにもっとも近い場所を探し当てた。思い描いていた時間帯の光を、計画通りのカメラ、レンズ、フィルムで撮った。

思えば、2007年のパリでは声で、2010年の東京ではビジョンで、作品のヒントをもらっている。

Tokyo01

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2012年11月10日 (土)

Novembre (2)

アルバムの2曲目に入っている「Novembre」という曲は、2007年にパリで思いついたフレーズをもとにつくった曲だ。2008年以降の11月に撮影するときは、その旋律を頭のなかでリピートしながら撮ったこともあった。

収録曲は大きく分けて2種類あって、2008年の個展「Awareness」のためにつくった曲、2012年の個展「Novembre」のためにつくった曲、それぞれある。

「Awareness」のときは意識しなかったが、「Novembre」のときはサントラを意識してつくった。多くの映画音楽がそうであるように、メインテーマが一つとサブテーマがいくつかあって、それらのバリエーション(「Passers By」「The River」「Reunion」など)が全編に散りばめられている。

また、撮影時に思いついた言葉をメモしておき、それを夜ピアノに向かって音にしたものもある(たとえば、昼間の撮影時に思いついた「Sooner or Later」という言葉をメモしておき、夜それを音楽にした)。

そして2012年に一つのアルバムにまとめ、2つの魂が、出逢い、別れ、また導かれ合うという「架空の物語」のサウンドトラックに仕上げた。もともと写真展のためにつくられた音楽であるから、ギャラリー等、空間との相性もいい。BGMに困っている作家やギャラリストにはぜひ買ってほしいと思う。

鑑賞の妨げにならないよう、音楽の過度な盛り上がりを意識的に抑制したり、抽象的な曲を多くつくったのだが、かえって私らしいアルバムとコメントされるのが興味深い。

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2012年11月 9日 (金)

Novembre (1)

11月の光を初めて意識したのは、2007年のパリ、世界有数の写真イベント「パリフォト」を訪ねたときだった。

その写真の大規模商談場を見るのには、長い時間は要らなかった。残りの時間で私は、友だちも知り合いもいないパリで一人、カメラ2台と手帳、万年筆だけをカバンに入れてひたすら歩いた。

クリスマスで浮かれる前の無口な街に、低い位置から差し込む光と長い影。誰とも言葉を交わすことなく、私はその光と影とだけを追い続けた。

日本を代表する国際弁理士T夫妻のご厚意で、シャンゼリゼにほど近いアパルトメントを借りることができた。そこを拠点に、地下鉄もほとんど使わず歩いた。パリは東京に較べれば小さいので、1日かければたいていのところに歩いて行けた。

誰とも話さなかったことで神経が敏感になっていたのか、孤独から来る幻覚だったのかは知らないが、パリに来て2、3日目で耳元に声が聞こえた。「詩を書け」とその目に見えない男の声は言った。その日から、写真を撮るだけでなく詩(のようなもの)も書き始めた。


Novembre

緩やかな曲線を描くコンクリートのトンネルに覆われた動く歩道の先の、
日本ならすでにもう使用不可の範疇に入るであろうターンテーブルに現れたスーツケースを拾い、
薄暗い到着ロビーを抜けて外へ出ると、
人気の少ない夜のシャルル・ド・ゴールのタクシー乗り場は、
11月の冷たい雨に濡れていた。

ダウンタウンまでの道のりは、
曇った窓ガラスと、ひっきりなしに動くワイパーと、
対向車のヘッドライトのせいでよく見えないが、
エンジン音や隣の車のクラクションに混じってラジオから聞こえるDJの言葉が、
懐かしさに似た心地よさで、耳に響いた。

13/11/2007

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