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2012年11月 9日 (金)

Novembre (1)

11月の光を初めて意識したのは、2007年のパリ、世界有数の写真イベント「パリフォト」を訪ねたときだった。

その写真の大規模商談場を見るのには、長い時間は要らなかった。残りの時間で私は、友だちも知り合いもいないパリで一人、カメラ2台と手帳、万年筆だけをカバンに入れてひたすら歩いた。

クリスマスで浮かれる前の無口な街に、低い位置から差し込む光と長い影。誰とも言葉を交わすことなく、私はその光と影とだけを追い続けた。

日本を代表する国際弁理士T夫妻のご厚意で、シャンゼリゼにほど近いアパルトメントを借りることができた。そこを拠点に、地下鉄もほとんど使わず歩いた。パリは東京に較べれば小さいので、1日かければたいていのところに歩いて行けた。

誰とも話さなかったことで神経が敏感になっていたのか、孤独から来る幻覚だったのかは知らないが、パリに来て2、3日目で耳元に声が聞こえた。「詩を書け」とその目に見えない男の声は言った。その日から、写真を撮るだけでなく詩(のようなもの)も書き始めた。


Novembre

緩やかな曲線を描くコンクリートのトンネルに覆われた動く歩道の先の、
日本ならすでにもう使用不可の範疇に入るであろうターンテーブルに現れたスーツケースを拾い、
薄暗い到着ロビーを抜けて外へ出ると、
人気の少ない夜のシャルル・ド・ゴールのタクシー乗り場は、
11月の冷たい雨に濡れていた。

ダウンタウンまでの道のりは、
曇った窓ガラスと、ひっきりなしに動くワイパーと、
対向車のヘッドライトのせいでよく見えないが、
エンジン音や隣の車のクラクションに混じってラジオから聞こえるDJの言葉が、
懐かしさに似た心地よさで、耳に響いた。

13/11/2007

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