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2013年1月 5日 (土)

鏡と窓と

1億総フォトグラファーともいえる今日、写真のあり方/価値をつくるうえでヒントになるんじゃないかと思う考え方がある。それは、「鏡と窓」。

「鏡と窓」は、キュレーターであるジョン・シャーカフスキーが1978年にMoMAで開催した「Mirrors and Windows」というタイトルの展覧会で使った表現で、シャーカフスキーによると、写真には大きく分けて2つ;「鏡」としての写真(自分の内面を知るために使う写真)と「窓」としての写真(外側で起きていることを知るための写真)があるという。

たとえば、アンセル・アダムスに代表される伝統的な手法による写真は「窓」に属し、その後に出て来たダイアン・アーバスに代表される、作者の内面描写により比重を置いたとされる写真は「鏡」に属する。

ところで、その1億人のフォトグラファーのなかで、写真にのめり込んでいく人たちのようすを見ていると、初めは記録のために撮り始めた写真(窓)だったものが、だんだん本人が「アート」や「表現」を意識するようになり、次第に自分の内面にフォーカスを当てた写真(鏡)を撮るようになっていくケースを多く見かける。また、とくに風景写真のような、見たものをありのままに写すことを目的とした写真(窓)に取り組む人も多い。

その大多数は「鏡と窓」を意識することなく写真をやっているのだが、けっきょくはどちらか一方に属する写真を撮っている人が少なくない印象を持つ。しかし、1億総フォトグラファーの現代においては、そのような写真は既に相当やり尽くされているので、本人が思っている以上に人々につまらなく受け止められることも多いのではないだろうか。

そんななか、絶妙なバランスで鏡と窓をブレンドさせた写真をつくっている人たちがいる。

一人は米田知子さん。たとえば「SCENE」と呼ばれるシリーズは、一見すると内面を描いた鏡的な写真に見えなくもない。しかし、そのタイトルや解説を見ると、世界各地の歴史的(主に戦争の)要所で撮られている窓的な写真でもあることが分かる。しかしそれは、ジャーナリズムとは一線を画していて、一度大々的な展覧会を拝見したが、プリントが非常に美しい。

また、米田さんは主に大判フィルムのカメラで撮っているのだが、その重い機材と明確なプランを携えて世界中で撮影する行動力にも目を見張るものがある。

このように米田さんは、感性、知性、芸術性、そして行動力の4点すべてにおいて高いクオリティを保ちながら、それらを絶妙なバランスで組み合わせて写真をつくる希有な存在だ。

もう一人は港千尋さん。たとえば「レヴィ=ストロースの庭」という本は、美しい写真集でありながら、レヴィ=ストロースという知性へのオマージュであり、同時に人類学者でもある港さん自身の過去のフィールドワークの写真が多数あり、レヴィ=ストロースについての写真集でありながら人類学そのものがなんとなく分かるというものでもある。ところどころに港さんの文が挿入されているが、写真と文のバランスもいい。

港さんもまた、感性、知性、芸術性、行動力、それぞれの完成度とバランスにおいて、他に例のない存在である。

「鏡と窓」に加えて、アートとアクション。2013年には、このような写真をもっと見たいと思う。

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