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2014年10月

2014年10月23日 (木)

先入観とビギナーズラック

10/22に開講した私が講師を担当する「Creative Black and White」という講座で、受講生一人ひとりに自己紹介で「これまでにした/体験した最も過激なこと」について話してもらった。どれも個性的でおもしろかったのだが、ものづくりとも関係する興味深い話があった。

1人の受講生は5歳のとき、乗り物があまりに好きなので、家の前の線路を歩いていけば電車に乗れるようなきがして、親の目を盗んで歩いた。途中で貨物列車が通りかかり子どもを見つけて急ブレーキで止まり、運転士が子どもを拾い上げ、次の駅まで運んだ。

その駅で子どもはパトカーに乗せられ、警察がその子の近所と思われる方角に窓を開けて走り「この子知りませんか」と訊き回った。子どもにとっては、二つも大好きな乗り物に乗れて最高の1日だった。

もう1人の受講生はあるとき、ウィンドサーフィンを見ていたら乗れるようなきがして、見よう見まねでやってみたらいきなり乗れた。そのまま風に乗って沖まで出てしまったところで引き返し方が分からないので、手を放し、助けを求めてレスキューされた。

二人に共通するのは、やってみたいと思ったことを「できるようなきがして」何も考えずやってみたら、できた、ということ(もちろん、一歩間違えれば命に関わる危険なことだったので、両手放しで褒められないのだが)。これはいわゆる「ビギナーズラック」の根拠である。

ある人が、ギャンブルにおけるビギナーズラックを説明していた。

たとえば初心者は、サイコロの同じ目を連続で出したりするが、経験者はそうでもなかったりする。なぜか。1の目の次にまた1の目が出る確立は1回目と同じ1/6である。その次にまた1の目が出る確率も同じ1/6のはずなのに、である。経験者は「同じ目を連続で出すことは稀だ」という「先入観」があり、確率以上にそれをむずかしく考えることが邪魔をするというのである。

ものづくりにおいても初心者は、先入観がないため、経験者が困難だと思っていることをあっさりやってのけたり、「え!」と思うようなものをつくったりする。

しかし、その後多くの人は、いろいろ経験したり、ベテランの苦労話を聞くうち、これはむずかしい、これは忍耐と訓練が必要、そんなことは不可能、というふうにやる前から勝手に思い込むようになっていく。その経験則という名の先入観が、自らの可能性を狭めるのである。

先入観に縛られないためには、やりたいと思ったら、まずはやってみること。そして、経験則が増えてきて自分にブレーキをかける自分が現れてきたときは、もし自分が何ごとにもワクワクしている初心者ならどうするだろうかと自らに問い、その通りにやってみるのである。自戒も込めて。

R1114900

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2014年10月 2日 (木)

光の神秘

デジタルカメラで写真を撮っていると、ときどきそれが「複写機」であるように錯覚する。もちろんその要素はアナログカメラにも多分にあるのだが、自分が日頃感じている光の存在感とは別の次元で光が数値化され、情報として処理されているような印象を持つとでも言ったらいいだろうか。デジタルカメラの高度な技術と進化の早さに敬意と感動を覚えつつも、いまだ私の写真の中心にはフィルムがある。担当する写真ゼミの受講生にその理由は何かと問われ考えるうちに、エピソードをいくつか思い出した。

作曲の修業時代、鎌倉の極楽寺という土地に8年半住んだ(その頃はまだ写真をやっていない)。古い木造アパートはやや高台にあり、夜にはカーテンの隙間から月の光が畳の上に差し込んだ。

満月の晩にはよく、窓際に布団を敷いてカーテンを全開にし、その青白く煌煌とした光に包まれながら寝た。反射光ながら心の奥底にまで差し込んでくる力強い光。その存在感と神秘。

幾度となく、かつてこの地に住んだ人たちはどんな心持ちで月を眺めたのだろうと考えた。夜中の照明が貴重な時代、この光は人々にとって、どれほど神々しいものだったのだろうと。

また先日、実家のある新潟で、6歳の息子と満月の光の中を歩いた。息子は初めて目にする月光だけに青白く照らされた夜の風景に驚いていたようだ。

ちょうど息子と同い年の頃、私は天体観測に取り憑かれた。低い身長でがんばって望遠鏡を覗き込むと、そこには何千何万年もの昔に発せられた光たちが見えた。

フィルムで写真を撮ることは私にとって、光の存在感と神秘を正面から受け止めることなのかもしれない。彼方で発せられ、この地に届き、生命を照らし育む光。それが、かたちをもつ物質、すなわち粒子としてフィルムに残される。

Joy24

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